室生寺御影堂のあらまし
室生寺は、屋外に建つものとしては最小の五重塔、奈良時代の金堂、室町時代の潅頂堂、多数の仏像、石楠花や紅葉など見どころが多いお寺である。主要な堂宇がある下方の伽藍と、山の中の石階段を上った先にある奥之院の2つのエリアがある。
御影堂は奥之院に建っている。

外観は簡素なものであり、それほど人目を引くものではない。小ぶりな堂宇である。真言宗の御影堂であるので、弘法大師さまが祀られている。内部は非公開である。
最大の特徴「木瓦」
他ではなかなか見られない大きな特徴として、屋根が木瓦葺かつ錣葺が挙げられる。木瓦とは文字通り、木を瓦の形状(平瓦と丸瓦に相当する二つの部材)に加工したものである。

木瓦は、かつて(鎌倉初期ころ?)はそれほど珍しいものではなかったと思われる。今でこそ瓦の製造は容易になっているが、大きな工場や自動製造の機械がない時代には、土をこねて寝かせて整形して窯を焚いて長時間にわたって焼成するのは大変なことであったと想像する。それに対して、木材の加工は、それなりの刃物があればできるため、比較的手がつけやすかったのではないか。山中のお寺であればなおさらで、山にある材料で、運びやすい道具で完結できる木質系の材料は扱いやすかったのではないか。
錣葺は、珍しいといえば珍しいが、ぜんぜんない、というほど少なくもない。この御影堂の場合はなぜ錣葺にしたのだろうか。入手しやすい材料の長さによったのかもしれない。同面で継いで使うよりも、段差をつけて一度水を切った方が、雨仕舞としては良くなる、というのであれば、合理的な理由ではないだろうか。
木瓦が現存する事例は少なく、奈良県では当麻寺曼荼羅堂の閼伽井屋で見られる。あと、確か、十輪院も木瓦葺であったが、現在では板の部分だけが残り、その上に本瓦が葺かれていて、板の部分は裏甲として外観に表れていたような記憶がある。また、かの有名な平等院鳳凰堂もかつては木瓦であったとみられている。中尊寺金色堂も木瓦であるが、現在は覆屋によって保護されている。
というわけで、室生寺御影堂は今でも木瓦の仕様が受け継がれている数少ない事例の一棟として貴重なものだと思うが、それを抜きにしてもなかなか魅力的な建築だと思う。
その他の見どころ
構成は一間四面堂で、外部の中央間を両開き板扉とし、長押に吊り込んでいる。外部には縁を廻す。床下を覗くと、正面のみ左官壁が礎石まで達していて、その他の3方は吹き放ちとしていて特異である。さらに柱の下には、禅宗様でないのに礎盤が置かれている。これは、後補なのか、腐朽をきらって足元だけ取り替えやすくする工夫なのか・・・。修理報告書をみたら分かるかもしれない。

柱は丸柱で、組物は大斗肘木、中備えに蟇股。頭貫の端部は大仏様木鼻を設ける。蟇股とその上に乗る実肘木は、繰形だけをつけた、奈良ではよくみられるもの。装飾としては最低限に近いものでありながらも、建物本体が簡素であるためにとてもバランスの良いアクセントになっている。古典派の交響曲で時々現れる管楽器群のアンサンブルのようでもある。隅木は地隅木、飛檐隅木を別木でつくっていて、飛檐の垂木と隅木は面がとられている。



軒はおそらく心反りで円弧に近い曲線に見える。規模が小さい建物なので、しっかり反っているように見える。当然ながら柱は隅延びしている。

シンプルな形ではあるが、シンプルなりの綿密なディテールと気配りとこだわりが見て取れる。質実剛健に見えながらも、奈良の建築らしい上品な優美さも兼ね備えている。非常に上質な建築であると感じる。
私にとっては、つらい石階段を登った先でしか見ることができないご褒美であり、毎回、上るのをためらうものの、御影堂を見るために登ってしまう。

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